「舞原はさ、もし次に生まれ変われたら何になりたい?」
「ん〜、何にも。生まれ変わりたいものなんてないよ」
短い思案の後に出た舞原の答えは、予想外でそっけないものだった。
「結局、こんなだけどさ。きっと私、なりたくて人間になったんだよ。今でもそう信じてるから……これでいいよ」
そう答えたときの舞原の横顔は思いがけず綺麗で、僕は言葉に詰まった。
「あれっ、なに、見とれてる? 惚れた? 新倉」
途端に舞原は相好を崩して、笑いながら茶化す。
「いや、なんか凄いよね、舞原。……強いと思う」
「ね、それよりさ……、世界が終わるまでにもっと新倉の事聞かせてよ」
……世界は終わる。それが今僕らの目の前にある絶対的な現実。どれだけの時間が残ってるのかは分からないけど、恐らく個人にとっての終わりはさらに確実で短期的だ。
「新倉、好きな人いた?」
その質問に、今度は僕が思案を始める。
ま、いいか、どうせ最後だから……。
「……B組の津ヶ谷さん」
「えっ、ほんとに!? あの子実はすごい性格悪いよ」
「ちょっ……、やめろよ。こんな時に人の憧れ壊すようなこと言うの」
「私にしときなよ、今ならすごいフリーだから」
舞原は、悪びれなく笑って言う。冗談なのか本気なのか……。
「あ、あれっ? やばっ、なんか涙出てきた」
いつのまにか頬を涙が伝っていた。
「えっ、ええっ? その反応ないよ!? そんなに私の事嫌い?」
まったく予期していなかったリアクションに舞原が珍しく戸惑う。驚いていたのは僕も同じだが。
「いや、なんか……、終わっちゃうんだなって、世界。本当に。そう思ったら勝手に流れてきてさ……ちょっ、待って、今止めるから……」
舞原はそんな僕の様子を見て、少し呆れたように苦笑した。
「……止めなくていいよ」
いつのまにか僕につられるようにして世界も泣きだしていた。
そして、濃紺色の雲が揺らぐ空の下……、柔らかく降り始めた黒い雨を浴びながら、僕らはそっと口付けを交わした。
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