Trust Yourself 作:ASD



 私は暗い地の底で震えていた。
 何故そんな所にいたのかも、そこがどこであるかも、全く見当がつかない。
 目を開けても闇。目を閉じても闇。その闇の深さにまるで目眩を起こしそうな、そんな闇。その闇の暗さに、恐れおののいた。
 恐る恐る伸ばした手に、冷たい岩肌が触れる。手探りに進んでいくと、同じ場所を何度か回っているのだという事に気がついた。そこは狭い竪穴らしい。
 私は冷たい外気にその素肌を晒していた。寒い。両手で自分の肩を抱いて、身を震わせる。
 ……さっきから一つ気になっている事がある。ぐるぐるとその場を歩き回っていた時から気付いていた事だ。
 背中の感覚が妙なのだ。何か重いものをぶら下げているかのような、そんな違和感。……いや、それは単に感覚の問題ではない。
 手を伸ばすと、指先がふわふわとしたものに触れるのを感じた。びっくりして手を引っ込めると、その拍子にそれがびくりと動いた。

 何となく背中をもぞもぞと動かしてみる。意外に容易に、それは動いた。
 私はそれを大きく伸ばし、そして引き寄せた。もう一度手を伸ばす。それはふわふわとしていて、暖かかった。
 前の方に動かしてみる。それは私の肩を回り込んで、私の身体をすっぽりと覆った。ふわふわとしたそれで身体を包み込んでみる。暖かい。寒さをしのぐには充分だった。
 上を見上げる。闇はどこまでも、どこまでも続いているような気がした。
 その時だった。私はずっとずっと上の方に、何やら光るものを見た。この暗闇で目を覚まして、初めての光。
 光は遠かった。ずっとずっと遠かった。そんな高みから、その光はその穴を照らしているように見えた。
 私は背中のそれを大きく開いてみる。その瞬間に、私はそれが何のためにあるものなのかを思い出していた。
 そうか。そうだったのか。
 思わず、笑みがこぼれる。
 私は背中の翼を大きくはためかせた。目指す光が、少しだけ近く見えた。



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